岡本土石工業株式会社 ~魚礁づくりに回帰水~

 

古代の神殿のような柱だけの建物の中を魚が泳ぎ回る……不思議な光景の写真を見たとき、何だろうと思いました。「人工魚礁」だそうです。こういった人工魚礁の多くはコンクリート製ですが、そのなかに回帰水を使って作られたものがあると聞き、さっそく製造元を訪ねてみることに。本紙126号で新しい農業との取り組みを紹介した三重県の岡本土石工業(株)です。(平成27年8月6日取材)

魚礁を辞典で引いてみました。「海底の隆起部では海水の循環が活発で、海水中の栄養塩類が表層まで押し上げられ、また太陽光も届くので、栄養塩類を養分として光合成を行う植物プランクトンが増え、植物プランクトンを餌とする動物プランクトンも増加する。結果、これらのプランクトンを餌とする魚類が集まって漁場が作られる」とあります。魚が天敵から身を守るシェルターでもある魚礁には、サンゴ礁など自然のものもたくさんありますが、海洋資源の保護・育成のために人工的に海底に作られたのが人工魚礁です。

 

魚礁づくりに回帰水が活躍

 

平成26年、三重県からの依頼で開始された熊野灘の魚礁づくり——「三重保全二期地区 紀南工区海女漁業等環境基盤整備事業藻礁設置工事」という長く厳めしいものが正式名称です。約半年間の工期で同年10月に工事終了。

写真で見る通りの、3メートル角以上もある巨大なブロックが60個ほど沈められたそうです。その半数が岡本土石工業のコンクリート製。「ご存じのように、当社のコンクリートはすべて回帰水を使って練っています。今回、他社さんも加わっていて半々といったところですけれど、ブロックには全部ナンバーが記されていますから、将来的に回帰水を使った当社のものとそうでないものとで、どんな差が出るか楽しみですね」と、担当した小野博課長。以前は事故などで沈んだ船舶類が魚礁として機能していたり、またそれらが観光に利用されていたりする例も多かったようですが「有害物質の流出などもあり、最近では環境に対する影響や安全性が考慮されています」とのこと。そんな面からも、回帰水使用のコンクリートなら魚も安心していられるのではないでしょうか。

 

豊かな海への願いを込めて

 

海や魚の専門家ではありませんので……と断りつつも「コンクリートには石灰分が多いので石灰質を好む昆布などは繁殖しやすいそうですよ。魚礁があると魚の集まり方も違いますし、集まる魚の種類も変わるようです。サザエやアワビなどの貝類も付きますし、海が豊かになります」と平野雅裕専務。

写真では分かりにくいのですが、魚礁ブロックの下部には3段のテーブル状のものが付けられています。ここにはイセエビなどが生育するそうです。まだ設置されてから1年弱。昆布などの海藻類が育つのに2年ほど必要といいますから、まだまだこれからですが、「ダイバーに潜ってもらって、経過観察の記録をとらないと……」とお二人で楽しそうに話し合われていました。

ところで魚礁の設置された場所ですが、岡本土石工業からも近い御浜町阿田和の沖としか分かっていません。何しろイセエビや魚の宝庫になるかもしれないのですから、漁業権の問題もあり、密漁を防ぐためにも詳細は公表しないのだそうです。海のロマンもかつての海賊の財宝探しから、豊かな海洋資源の保護へとよりスケール大きく、地球の健康を願う回帰水の夢も着実に育っています。

 

 

■■■■■■  試験室からコンクリート・ミニ辞典  ■■■■■■

農業分野でも回帰水が大活躍している岡本土石工業。本業である生コン部にも1年半ほど前に大きな「生コン用特注セラミックパイプ」が設置され、1日150〜200立方メートルも生産される生コンにはすべて回帰水が使われています。

水を変えてからのコンクリートの変化などをお聞きしているうちに「コンクリートって案外デリケートなんですよ」という思いがけない言葉が。回帰水に変えてから生コン特有の臭いが減ったり、流動性が良くなったりと……色々あるようですが、「強度もただ高ければいい、というわけではないんです」。JISの規格に収まらなければダメだそうで、強度から含まれている空気の量、粘度まですべて細かくチェックしなければなりません。

実際に試験室を見せていただきました。まず現場で施工した生コンをその場で採取して小型の円柱状の供試体を作製します。それを試験室の水槽で20℃前後(決まっています)の水に浸けてから強度をチェックするのですが、1週間目で一度チェックし、4週間後に圧力をかけて砕き、最終的に測定。こうして規格に合ったもののみが使われるわけです。

生コンはミキサー車に流し込んでから現場まで90分以内に届かなければならないという規定もあるそうですし、ミキサー車の洗浄も、アルカリ分を含むということで廃液の処理まで細心の注意を怠りません。確かにとてもデリケートというか気難しいもののようです。

ちなみに、生コンは「レディ・ミクスト・コンクリート」、ミキサー車は「アジテーター・トラック」というのが正式名称。皆さんご存じでしたか?

 

2016年03月30日