農業生産法人 有限会社たかき 轟街道 ふれあい市

安心・安全な食品を求めている消費者。かたや、もっと直接的に消費者と結びつきたいと願う生産者。

「食の安全性」への危機感が募るにつれて互いの顔の見える関係がより求められるようになってきた今日、従来の農法や流通システムにとらわれない人々が増えてきています。長崎県諫早(いさはや)市にある「農業生産法人(有)たかき」も、そんな人たちによって運営されています。

 

 

 

 

国道207号沿いにある高来(たかき)町の「轟街道ふれあい市」。地元の野菜や果物を中心に、それらを加工した惣菜なども揃う直売所です。そもそもは平成11年、地域活性化グループの運営によりスタートしたところ、これが大好評。

年々規模が拡大していくにつれ、会社組織にしたほうがよりスムーズに運営できると「当初からの出品者だった地元農家のおばちゃん40人が5万円ずつ共同出資し、平成15年に『農業生産法人(有)たかき』として改めて発足したんです」と、代表の松永孝典さん。農業とは無縁のサラリーマンでしたが、直売所のスタート時からボランティアで得意分野の経理を担当してきた縁で、代表を務めることになりました。

今では高来町のみならず、諫早市全般の農家や食品加工所からの品物を扱い、長崎市内にもう一店舗を展開しています。直売所といえば「道の駅」をイメージする人も多いでしょうが「うちは地域住民が対象の地産地消が目的。ですから、店舗もあえて住宅街の中に設けています。

自分の家の食卓の延長線上にあるもの、安心・安全で毎日消費するものを扱うのがポリシーです。『道の駅』のように観光客が対象となると、常に新しく、目を引く商品を出し続けていかなくてはなりません。でないとすぐに飽きられ、立ち行かなくなります。『食』とはそんなものではないと思うのです」

 

やりがいがあり、活気に満ちて健康に

毎朝5時半、地元農家の皆さんが採れたばかりの作物を届けにやってきます。ユニークなのが、商品の価格を生産者自身が自由に決められること。通常、ひとつ店では同じ種類の商品は、誰が作ったものでも一律同価格で売られるもの。けれどここでは、たとえば同じ1袋のみかんでも、生産者によって異なります。「作り手で味が違いますから。おいしい人のものは、高くても人気があるんです」と松永さん。

商品には生産者の名前が明記されており、客もしっかり選び分けています。おいしければ売れるし、おいしくなければ売れない。実にシンプルにして当然のこと。結果、生産者たちの間にいい意味での競争意識が生まれ、よりよい作物の収穫を目指して切磋琢磨するように。

「やりがいが生まれ、皆さん活気づいて健康になりましたね。『忙しくて、病院なんかに行ってる暇などないわ』って(笑)。それが一番の直売所効果かな」

 

 

 

高齢化・過疎化への対応

 

直売所を営む一方、(有)たかきでは農業生産法人として、さまざまな活動を行っています。高齢化に伴って維持できなくなった田畑の管理代行をはじめ、農業研修生を受け入れて後継者を育成したり、新規就農者への田畑の紹介など多岐にわたり、担っている社会的役割には大きなものがあります。事業を存続させるためにも、作物の自主生産・販売に取り組むのは当然のことですが、なかでも、現在力を入れているのが、米とそば。

「ここは扇状地で土壌が肥沃。加えて背後に控える多良岳の名水で、おいしい米が収穫できるんです。昨年は完全無農薬米を栽培しました。十分うまいですが、もっともっとおいしくなれるはず。納得のいく味ができるまで研究を続けますよ」と松永さん。

 

一方、そばは絶滅寸前の原種を復活させた貴重なもの。近隣地区では何百年も昔から自家用にそばを栽培し、年越しそばとして親族に配る慣習がありました。それが徐々にすたれ、絶滅の危機に。そこで2年越しのプロジェクトを組み1年目は播種用に保存、昨秋初めて収穫し『幻の高来そば』として販売しました。

「信州そばの三分の一程の大きさで、香りが高く粘りがあるため、打ちたての十割そばは本当にうまい。この近辺ではゆでたそばを洗わず、そば湯に好みの味をつけそのまま食べます。『どろりそば』といいますが、そばの香りが高く最高です」

 

主力商品に欠かせない『回帰水』

 

両者ともブランド力は十分にあり他との差別化になる、と確信している松永さんですが、この意欲的な試みを後方で支えているのが『回帰水』。無農薬を目指す水田には『どんぶら子』が、そば打ちや惣菜づくりには直売所内に設置したVIPが欠かせないといいます。

「アピールとサービスを兼ねて店内のVIPから自由に飲んでもらうようにしていますが、評判がよくて。ここは名水で知られているけど、その水で育った人たちが『おいしい、おいしい』って。VIPでさらに磨きがかかるんでしょうね。20〜30リットルと汲んで帰る人も多いですよ」

 

食文化の発信で町おこしも

「うちの研修生が、復活した『高来そば』でそば屋を開業するんです。そば打ちだけでなく栽培するところからすべて手がけたい、ということで研修生になったんですが、『食』へのこういう取り組み方もあるのだな、と。

将来的にはこういう人がたくさん集まって店が立ち並び、食べ歩きできるような『そばの街』にしたい、という構想を持っています」。単に食材や食品だけでなく、食文化をも発信していきたいという松永さん。門外漢だったからこそ、従来の常識にとらわれない柔軟な発想で幅広く農業に取り組め、時代のニーズを先取りできるのかもしれません。

 

●農業生産法人 有限会社たかき

轟街道ふれあい市

長崎県諫早市高来町小船津363-5

TEL(0957)27-7500 9:00〜17:00 無休

●轟街道ふれあい市・長崎店

長崎県長崎市城栄町18-23

TEL(095)843-4111 9:30〜17:00 無休

2014年02月16日